踏み絵

日々のこと

イランで大規模な抗議デモが始まって1カ月以上が過ぎました。

発端は、首都テヘランで22歳の女性がヒジャブのかぶり方が不適切だとして風紀警察に拘束され、その3日後に死亡した事件でした。

バンクーバーのダウンタウンでも何週間か前の日曜日とその次の週の日曜日に、大規模な抗議デモが行われました。

大きな通りを通行止にして開催された超特大規模のデモでした。

そのデモ行進に参加して練り歩いていたのは、ほとんどがイラン人のようでしたが、あれほど多くのイラン人がカナダというかバンクーバー周辺に住んでいることにとても驚きました。

手書きの説明や思いの丈が記された巨大ポスターにはペルシア語で書かれたものもたくさんあって、かなり物々しい印象を受けましたが、当然ですよね。

人々は悲しみ、怒っていました。

大規模なデモはその2回にわたった日曜日だけでしたが、小規模なグループの集まりはその後も続いているようです。

さて、先日ダウンタウンのバンクーバー・アート・ギャラリーの前を通りかかった時のことです。

イラン人と思しき中年女性が二人並んで立ち、ペルシア語でぎっしり説明が書かれたポスターを掲げて、何かを訴えていました。

彼女たちの足元の地面には、男性の顔がアップで映ったカラー写真が2枚貼ってありました。

写真は1枚80センチX80センチくらいの大きさです。

私はその男性二人が誰だかわかりませんでしたが(そして今もわかりませんが)おそらくは、イランの大統領とか当局幹部だと思います。

そして彼女たちは道ゆく人たちに、そのドアップの顔写真を土足で踏みつけるようにと訴えていました。

私が通りかかったとき、カナダ人(白人)の男女2人(多分母親と20代の息子)がその女性たちの話を聞いているところでした。

母親の方はイラン人女性の話に完全に気持ちを持って行かれたようで、その写真の上をくるくると歩き回り、男性二人の顔を思いっきり踏みつけています。

足をドンドンさせながら息子(多分)にも自分と同じことをするように促し、

「だって、ホントに悪い人たちなのよ。腹立たしいわ」

と、大きな声で憤慨を隠しません。

一方、息子の方はそうした行為を躊躇しています。

「でも、どんな酷い人であってもリスペクトって必要じゃないか。顔を踏むとか、できないよ」

と、母親に比べるとずいぶん小さな声で意見を述べ、写真の上を歩くという行為には加担しませんでした。

私が彼だったら・・・

絶対に踏まないと思います。

まず、人の顔の写真の上を悪意を持って踏みつけるとか、できない。特に極悪人であっても全然知らない人に対しては。

そして何より、完全に無意味としか思えない。問題の解決に1ミリも貢献していない。イラン国外の安全な場所で、私のようによくわかってない外国人がよく知らないイランのトップの人の写真を踏みつけるって・・・

あの踏み絵を訴えていたイラン人の女の人たちは、とにかく自国民のために何かしようと思って、思いついたことをやっていたのだと思います。

カナダには風紀警察もいないし、彼女たちには公の場で踏み絵をする自由が保証されています。

でも・・・

私は通り過ぎながら、途方も無いやるせなさを感じました。

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