無くした形見のイヤリング

日々のこと

パーティーに招待されました。

しかもとてもきちんとした人たちが集まるきちんとしたパーティーに。

本来なら私が呼ばれることはない種類の会ですが、意外なことが重なって、私はそこにいることになる予定です。

さて、何を着て行こう。

服装は無難な黒のワンピースにすることにして、どんなアクセサリーを合わせようかと思案していました。

まあ、思案も何も、アクセサリー類はほとんど持っていないので、自ずと選択肢は狭まります。

新たに買おうとする気も起きません。

実は私はピアス以外、身体に何かをつけることがとても苦手です。

ネックレスもブレスレットも腕時計も指輪も苦手。

何かが身体に触れているという感覚がどうもダメなのです。

その点ピアスはつけている感覚がないので唯一大丈夫なアクセサリー。

でも、イヤリングは厳しいです。

つけてる感覚があるし、しかも長時間つけてると頭が痛くなってくることもあります。

そんな感じで、アクセサリーの箱をひっくり返して、パーティーには何がいいか吟味している時に、ある不思議なことを思い出しました。

片方が・・・

本当にショックでした。

祖母が亡くなった時、形見として小さな真珠のイヤリングをもらいました。

上述の通り、イヤリングは苦手なので、つけることはまずありません。

なのに、5、6年前のその日、どういうわけかそのイヤリングをつけてレストランに行ってしまいました。

そしてその時、どういうわけか、耳を触ってしまいました。

するとどういうわけか、その耳についていたイヤリングが取れてしまいました。

イヤリングは私の身体から離れると、コロコロと転がってレストランのカウンターみたいなところの下に入り込んでしまいました。

えええ!!!???

私は真っ青になって店の人に説明してカウンターを動かし、その周り一帯をくまなく捜索しました。

ああ、でも、どうしてでしょう。

イヤリングは見つかりませんでした。

・・・

形見のイヤリングが片方だけになってしまいました。

大ショック。かなり動揺しました。

おばあちゃん、ごめんなさい。

大切な形見をなくすなんて、私、ホント、ばか。

なんで今日、イヤリングをつけようと思ったんだろう。

なんで耳を触っちゃったんだろう。

私はうちに帰ると、片方だけのイヤリングを専用の小さな箱に入れて、専用の棚に収めました。

夢かうつつか

その後、無くしたイヤリングのことは、折に触れて思い出し、自分があの日イヤリングをつけて外出したことを悔やんでいました。

さて、それから数年経った頃、片方だけのイヤリングが入った箱を開ける機会がありました。

何かの整理、引っ越しの際の整理だったと思います。

箱を開けて、私は息を呑みました。

目を疑いました。

箱の中に、一揃いの真珠のイヤリングが入っていたからです。

つまり無くしたイヤリングが、なぜか戻ってきた形になっています。

???

確かにイヤリングが戻ってきたことは飛び上がるほど嬉しいけど、非常に非現実的です。

私はまず、イヤリングを無くしたこと自体が夢だったんじゃないかと自分の頭を疑いました。

次に、イヤリングは無くしたけど、あの日探しまくったら見つかったのに、その記憶こそが無くなった、記憶喪失だったんじゃないかと自分を疑いました。

最後に、レストランの誰かが見つけてくれて、後日取りに行ったことを私がすっかり忘れていた、これまた記憶喪失なんじゃないかと自分を疑いました。

いやいやいやいや。

どれも絶対ありえません。

いくらトンチンカンな私とはいえ、そんな大切なことを忘れてしまうなんて、ありえません。

あの時のショックな気持ち、片方だけのイヤリングを箱に入れた時のやるせない気持ちはどう考えても本当に起こったことです。

もう、ありありと覚えています。

紛失事件はあまりにもショックすぎて、誰にも話してませんでしたから(レストランは一人で行った)、この話を実際に起こったことだと証人として共有してくれる人は誰もいません。

まあ、終わり良ければすべて良し、ではあります。

さっぱり意味がわかりませんが、この件についてはもうあまり深く考えないようにしています。

私は結局、おばあちゃんがイヤリングを見つけて、そっと箱に戻してくれたんだということで納得しています。

アクセサリーの箱を引っ張り出してパーティーにつけて行くものを探している時に、改めてこの話を思い出したわけです。

あのレストランの日以来、形見のイヤリングは身につけていません。

でも、この小さな真珠のイヤリング、パーティーにつけて行きたいような気になってきました。

もう二度と無くさないと誓って。

おばあちゃん、ありがとね。

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