歯医者に行きました。
この歯科医院に行くのはこれが3回目で、この日は普通に虫歯の治療でした。
治療時間は1時間。
ドクターは私より少し年上と思しき、とても感じのいい温和そうな男性で、スタッフは受付も助手も、地味だけどちゃんと仕事をするタイプという印象です。
これまでカナダで通った歯医者さんは、小児歯科や矯正歯科のドクターなど、すべてひっくるめて延べ何人くらいになるでしょうか。
結構な人数になると思いますが、激しく感じるのは、医者といえども集客(集患)のためには外交手腕がモノを言うと、ドクターたちが信じてそうなところです。
実際、治療のうまさと同じくらい、口のうまさが人気(集患)を左右するんでしょうね。
でも私はアメリカンなトークを駆使したビジネス臭のする歯医者って苦手です。
男女に関わらず、服装や髪型など外見についてポジティブなコメントをよこす医者は全く信頼できません(構えすぎ?)。
妙にハイパーなドクターもちょっと・・・
その点、この歯医者さんは普通の感じが安心感を誘います。
歯医者と歯科助手

上述の通り、結構な数の歯科医院に通いましたが、もう一点、私が歯医者で注目するポイントに、ドクターが助手をどのように扱っているか、というものがあります。
たまに助手に対して非常に当たりの強い医者がいます。
イラつく理由もあるのでしょうが、そばで見ていてあまり気持ちのいいものではありません。
この点に関してもこのドクターは満点でした。
治療中それぞれ別々の作業を淡々とこなしながら、器具の受け渡しなんか合わせるところではピタッと合わせてくる息のあった連携プレイは「うまいなあ」と感動しました。
このドクター、助手(女性)にほとんど指示を出さないんですが、助手はドクターの心が読めるかのようにテキパキと必要な介助を繰り出します。
プロは違いますね。
別の意味の話術

さて、この二人ですが、私の虫歯の治療をしながら、ちょっとした世間話を始めました。
週末にどうしたとか、そういうこと。
そしてきっかけは忘れましたが、この助手がドクターの成人した子供たちについて質問を始めました。
ここから教訓に満ちた物語が展開されていったわけですが、いやあ、おもしろかった!
変な社交話術を使わずとも、患者の心をグッと掴むことができるトーク・レベルでした。
二人の会話から、ドクターには3人の子供がいることがわかりました。
そして助手の鋭い質問に答える形で、ドクターは赤裸々に(?)3人の子供ひとりひとりについて語り始めました。
住宅ローンの頭金

今日はドクターの長男について書いてみることにします。
彼は28歳の会計士で、最近婚約者とバンクーバーにある一軒家を購入したそうです。
28歳でバンクーバーの一軒家を購入するのは驚異的なことです。
だって高いもん。何億とかしたはず。
さすが医者の息子、お父さんからものすごい援助を受けたんだろうなあ、いいなあ、と私は大きな口を開けたまま思いました。
家を購入し、その改築に大忙しだというところまでは助手も知っていたようで、改築についての質問をいくつかぶつけていましたが、ふと思い出したように、
「そういえば、家を買う前に所有していたコンドミニアムはいくらで売ったの?」と質問しました。
すると「売ってないよ」という答え。
私は「えー!?」と思いました。
それと同時に助手も「えー!?」と言いました。
普通ならこの場合、コンドミニアムを売ったお金を一軒家の頭金にするからです。
助手が私の気持ちを代弁するように「一軒家の頭金はどうやって工面したの?」と質問を投げかけます。
ドクターの答えは「貯めたんだよ」。
・・・全然答えになっていません。
助手も全然納得がいっていない様子です。
そこでドクターは話し始めました。
息子は大学卒業後、会計士として給料のとても良い会社に就職することができたそうです。
そしてずっと実家に住んでいた。
その間、父親であるドクターは、生活費の要求を一切しなかったそうです。
もちろん、生活費を入れるように言おうかと思った。
そしてそのお金はこっそり貯めておいてあげて、息子が家から出て行くときにこれまでの生活費を全部返してあげるというふうにしようかと。
でもそれはやめたそうです。
なぜならそんなことをしなくても、その長男は自分できっちりお金を貯めることができるタイプだったから。
就職してから実家で暮らした数年間、1年に4万ドル(400万円くらい)は貯めたそうです。
ってことは20万ドル(2000万円)くらいは貯めたのかな?
付き合っていた婚約者も同じくらいを貯めたらしく、それを合わせてコンドミニアムの頭金にして、その余りとその後の貯蓄を一軒家の頭金に回したそうです。
コンドについてはすぐに完済したような感じでした。
このコンドは、一軒家を買うとき売却することも考えたそうですが、貸し出すことに決め、そこで得られた家賃収入を一軒家の住宅ローンに当てているんだと言っていました。
なんて理想的な不動産購入。
はー、28歳で、すごいなー。
これは助手が何度も口にした台詞で、私が何度も頭の中で呟いた台詞です。
恵まれているからといって

また、助手はこのようにも言いました。
「もちろん、あなたの息子だから、とても恵まれた環境にはいるけれど」
うんうん。
「だからこそ、すごいですよね。だってこんな家庭環境で、さらに自分も高収入とくれば、お金ってあったらあっただけ使うじゃないですか。環境に甘えて、特に若いうちは」。
そうそうそうそう!!!
この息子と婚約者、若いのに堅実だなあって話を聞きながら私もずっと思ってました。
そしてその後、長女と次男についての話に及んだわけですが、性格の違う次男からは生活費を取っている話など、まあ面白かったです。
こうして1時間の治療中に3人の子供の詳しい話がずーっと続いたわけですが、濃縮されたエンタメ系ラジオドラマを聞いているようでした。
示唆に満ちた話がテンポよく流れ、助手の切り込みは秀逸で、しかも1時間で話も治療もきっちり終わる展開だったので、これは新しい患者には毎回やってるトークショーなんじゃないかと真剣に思ったくらいです。
こんな歯医者は初めて。
面白かった。治療が終わって椅子から起き上がったとき、現実の世界に戻るまで、ちょっと時間がかかったほどです。
それくらい話に入り込んじゃった。
次回の予約は10月ですが、今から楽しみです。
次はどんな話が聞けるんだろう。


コメント